「これは、ほんとにまずいかもしれない」
白い陶器の底で水と混じり合う、ワインレッドの液体を見つめながら、こうめいさん(40)は思った。
今年の1月5日。横浜市に住むこうめいさんは、双子の娘もっちゃん(9)、こっちゃん(9)と、埼玉県加須市の一軒家にいた。
スキルス胃がんのため、2020年の1月に32歳で亡くなった妻、みどりさんの実家だ。
みどりさんは、もっちゃん、こっちゃんのために思いを記した2冊の「だいすきノート」を残し、旅立った。
極めて厳しいがんであることを知ったみどりさんは、双子の娘たちへの思いを二つの冊子に残し、旅立ちました。その時からもうすぐ5年。娘たちはある挑戦に取り組んでいました。それからの家族の姿を見つめました。
- 【連載一覧】娘たちへ 2冊のだいすきノート
- 【第12話】「ママは空から見守っているよ」 ノートに託した2人への思い
加須市の実家には、みどりさんの父のりあきさん(69)、母えつこさん(63)が住む。すぐ近所には、えつこさんの弟たかしさん(60)とたかこさん(63)の夫妻もいる。
みどりさんが亡くなってからも、こうめいさんたちはたびたび加須市の実家を訪れ、みんなと一緒に食事をしたり、買い物や遊びに出かけたりして過ごしていた。
このとき、こうめいさんは洋式トイレの個室にいた。
のりあきさん夫妻と計5人で新潟県での1泊スキーに出かけ、戻ったところだった。用を足していて、真っ赤なおしっこに気付いたのだった。
かなりの量の血が混じっていることは、間違いないと思われた。
がんの可能性、否定されなかった
2日ほど前、尿が茶色いのに気付いてはいた。その際も血尿を疑いはしたが、さほど気にしていなかった。
スキー場で使ったトイレは男性用。しっかりと目を向ける前に、尿は排水溝の奥へと消えていた。
実は年末、こうめいさんはこっちゃんとともに数日間、高熱に苦しんでいた。その影響で、おしっこが濃くなったんだろう。すぐ元に戻るはずだと考えていた。
こうめいさんは、赤ワインのような色になったのにあわて、ネットで血尿の原因について検索した。真っ先に出てきたのは「悪性腫瘍(しゅよう)」。膀胱(ぼうこう)や腎臓のがんだった。
翌日、市内の泌尿器科診療所を受診した。
尿検査などを受けたが診断は下らず、「もっと大きな病院でしっかり検査を受けてください」と医師に言われた。
「高熱だったせいでは?」。こうめいさんの疑問に、医師はとくにコメントしなかった。そして、最悪のケースとしたうえで、がんの可能性も否定しなかった。
みどりさんも、がんが見つかったきっかけはトイレでの血だった。
- 【第1話】32歳の双子のママ、食事中に吐血…診断結果は「スキルス胃がん」
進行した胃がんの病巣部からあふれた血を吐き、救急車で病院に運ばれた。
まさか、自分もがんなのか。
妻の実家に戻ったこうめいさ…